はじめに
介護事業所の採用担当者・経営者の方へ。応募は来る、採用もできる。しかし数ヶ月で辞めてしまう。この記事は、そんな状況が続いている方に向けたものです。
結論から書きます。この問題は、応募数を増やしても解決しません。むしろ応募を増やすほど悪化することがあります。
この記事で分かること
・入職時の一時金が生んでいる構造
・応募が増えるほど定着率が下がる理由
・応募を減らしてでも残る人を集める設計
【この記事の執筆・監修】
Pinmov ディレクター 三上 渉吾
地上波テレビ通販番組で6年間「売れる台本」を作り続けてきたプロフェッショナル。映像の綺麗さではなく、視聴者の行動を引き出しCPA(採用・獲得単価)を確実に下げるためのダイレクトレスポンス構成に特化。
採用にかかる費用は、応募が増えても下がらない
介護職の採用には、複数の費用が乗ります。
人材紹介会社を通せば紹介手数料が発生します。自社で入職一時金や支度金を設けている事業所もあります。求人媒体への掲載料もかかります。
問題は、これらがすべて「採用した時点」で確定することです。
入職して3日で辞めても、3年勤めても、支払った採用費は同じです。返還規定を設けていても、実際に回収できるケースは限られます。
つまり、定着率が下がるほど、1人を戦力にするための実質コストは跳ね上がります。
5人採用して4人残れば、採用費は4人で割られる
5人採用して1人しか残らなければ、同じ費用が1人に集中する
応募が増えても、この構造は変わりません。
「入るともらえる」制度が業界に定着している
介護業界には、入職時にまとまった金額を受け取れる仕組みが複数あります。
厚生労働省の介護職就職支援金貸付事業では、未経験で介護・福祉業界へ転職する人が指定の研修を修了すると最大20万円の就職支援金を借りることができ、その後2年間介護や福祉の現場で働くことで返済が全額免除されます。
離職した介護人材の復職を支援する再就職準備金の貸付制度もあり、こちらは最大40万円で、2年間介護職員として従事すれば返済が免除される仕組みです。
これに加えて、事業所が独自に設ける入社祝い金や、転職サイトが支給するお祝い金があります。求人媒体には、入社祝い金ありと明記した介護職の求人が多数掲載されています。
制度そのものは、人手不足への対策として妥当です。問題は、これらが積み上がった結果、業界全体が「入ると金が入る」構造になっていることです。
金額を前に出すと、金額で選ぶ人が集まる
求人で金額を前面に出せば、金額で判断する人が集まります。
これは求職者を責める話ではありません。条件を提示して募集している以上、条件で選ばれるのは当然です。設計上そうなっているだけです。
そして、金額で選んだ人は、より条件の良い事業所が現れたときに移ります。留まる理由が金額しかないためです。
一時金は、採用のスピードと引き換えに、定着の理由を失う仕組みになっています。
応募を増やすほど、定着率は下がる
多くの事業所が最初に取る手が「応募を増やす」です。求人媒体を増やし、条件を良くし、掲載を強化する。
しかしこれは、母集団の質を下げる方向に働きます。
条件を良くすればするほど、条件で選ぶ人の比率が上がるからです。仕事の中身に納得して入る人の割合は、相対的に下がります。
その結果、こうなります。
応募数:増える
採用数:増える
3ヶ月後の在籍:変わらない
採用費:増える
数字の上では採用がうまくいっているように見えるのに、現場の人手不足は解消しない。この状態に陥っている事業所は少なくありません。
辞める理由の1位は、給与ではありません
介護労働安定センターの令和5年度介護労働実態調査によると、直前職が介護関係の仕事だった介護従事者が前職を辞めた理由は、職場の人間関係に問題があったためが34.3%で最も多く、次いで法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったためが26.3%、他に良い仕事・職場があったためが19.9%、収入が少なかったためが16.6%でした。
同調査では、この上位の順番は経年で変化しておらず、2023年度の職場の人間関係に問題があったためは前年度比で6.8ポイント増加しています。
上位2つが、いずれも人と組織の問題です。収入は4番目で、16.6%にとどまります。
つまり、金額を上げても離職の主因には届いていません。
人間関係と運営方針は、求人票では伝えられない
ここに構造的な問題があります。
離職理由の1位と2位は、いずれも入職前に確認できない要素です。
職場の人間関係 相談できる相手がいるか。申し送りで意見を言えるか。忙しい時間帯にどんな声のかけ方をしているか。
法人や事業所の理念と運営のあり方 何を優先しているのか。現場の意見がどう扱われるのか。人員配置や夜勤体制をどう決めているのか。
求人票に「アットホームな職場です」「風通しの良い運営をしています」と書くことはできます。しかし、どの事業所も同じことを書いているため、判断材料になりません。
書けば書くほど、区別がつかなくなる。これが介護採用の根本的な行き詰まりです。
求職者は、確認できる唯一の指標である金額で判断します。金額で選ばせているのは、事業所側の情報の出し方です。
定着させたいなら、応募を減らす覚悟が要る
ここから先は、受け入れがたい提案かもしれません。
大変な部分を、入職前に見せてください。
夜勤の実際の回り方。記録にかかる時間。認知症フロアの雰囲気。看取りがある場合はその事実。
これを出すと、応募は減ります。間違いなく減ります。
しかし、残る人の質が変わります。
大変さを知った上で応募する人だけが来る
入職後のギャップが発生しない
思っていたのと違うという理由の離職が消える
応募10人で3ヶ月後に2人残るのと、応募4人で3人残るのでは、後者のほうが採用費も教育コストも低くなります。
文字では、大変さを正直に書けない
ここに実務上の壁があります。
求人票に「夜勤は体力的にきついです」「記録業務が多いです」と書くわけにはいきません。ネガティブな情報だけが文字で並ぶと、事業所の印象そのものが悪くなります。
文字は、ネガティブな情報を伝えるのに向いていません。前後の文脈が失われ、書いてあることだけが強く残るためです。
映像は違います。夜勤の体制表を映しながら、職員が普通に働いている様子が同時に見えれば、大変さと、それでも成立していることが同時に伝わります。
「月4回まで」というテロップと、職員室で普通に会話している映像。この2つが同じ画面にあることで、情報が正確に届きます。
そして、離職理由の1位である職場の人間関係は、映像でしか伝えようがない領域です。申し送りの場面を加工せずに映すだけで、言葉10行分の情報が届きます。
何を見せるか
定着を目的にした動画で入れるべきものは、応募を増やす動画とは違います。
入れるもの
申し送りの様子(加工せず、現場音のまま)
夜勤の体制表(回数と人員配置が見えるもの)
記録作業の実際の場面
フロアの種別と利用者の様子(後ろ姿・手元のみで可)
入れないもの
一時金や支度金の金額
利用者と職員が笑い合う場面だけの構成
アットホーム、風通しの良い職場といった抽象的な言葉
特に一時金の金額は、動画に入れないでください。金額で人を集める設計に戻ってしまいます。
応募数以外の数字で評価する
動画を導入した効果を、応募数だけで測ると判断を誤ります。
見るべき数字
3ヶ月後の在籍率
6ヶ月後の在籍率
1人あたりの実質採用コスト(採用費 ÷ 定着人数)
面接まで進んだ人の割合
応募数が減っていても、3ヶ月後の在籍率が上がっていれば成功です。採用は、入れた人数ではなく残った人数で評価すべきものです。
まとめ
採用費は採用時点で確定し、早期離職で1人あたりのコストが跳ね上がる
公的制度と事業所独自の祝い金が重なり、業界全体が「入ると金が入る」構造になっている
金額を前に出すほど、金額で選ぶ人の比率が上がる
離職理由の1位は職場の人間関係で34.3%、収入は4位の16.6%にとどまる
上位2つは求人票では伝えられない。映像でしか届かない領域
評価すべきは応募数ではなく、3ヶ月後の在籍率
応募を増やす前に、誰に応募してほしいのかを決めてください。それが決まっていない状態で母集団を広げると、採用費だけが増えていきます。
撮影時のプライバシー配慮については、介護採用の特設ページで詳しく説明しています。
参考にした調査
公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度 介護労働実態調査」 厚生労働省「介護職就職支援金貸付事業」 厚生労働省「再就職準備金貸付制度」
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三上 渉吾
Pinmov / 構成設計担当ディレクター
地上波の通販番組の制作に6年。100本以上の現場で、視聴者が動く構成と動かない構成の差を見てきました。
現在はPinmovで採用動画の構成設計を担当。全カットに設計意図を書いた台本を納品しています。
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